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豊かさ
かつて貧しさを克服するのが経済の役割だった。それが経済的な豊かさを達成したときに、真の豊かさとは何かという問いが日本社会に生まれた。生活、労働、文化と豊かさの関係とは。
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 経済的に貧しかった時代は、「豊かさとは何か」を問うようなことはそれほどなかった。しかし、高度経済成長を経て経済優先社会への反省が生まれたあたりから、この問いが発せられるようになる。単なる物質的な豊かさではない精神的な面での豊かさを求める指向が高まってきたからである。さらに、バブル経済を迎えて日本は“額面上”非常に豊かになったが、一方で過労死や地価の高騰などにより生活レベルでの豊かさを問い直す機運も高まった。
 別な見方をすれば、国家や企業が豊かになったのに比べて、個人レベルで豊かさを日本人が享受できたのだろうか、という疑問を多くの日本人が抱くようになった。こうした思いに応えるようにバブルの絶頂期に書かれたのが『豊かさとは何か』(暉峻淑子著、岩波新書)である。ドイツとの比較をまじえて仕事、住まい、老後などを生活者の視点からとらえ、真の豊かさとは何かを問い、日本の歪んだ姿を浮き彫りにした。表面上の数字に現われる経済的な豊かさでははかることができない、心の豊かさが日本には欠けているという指摘である。ベストセラーとなった本書の姉妹編として、2003年に出版された同じ著者による『豊かさの条件』では、バブル期から一転して不況へと陥った日本社会のなかで、これもまたドイツとの比較などをまじえ、さらに豊かさを問い直す。厳しさを増す雇用環境や生活苦やホームレスの実態を問題視し、子どもたちが置かれた競争社会を批判する。その一方で若者のNGOの活動などを通して、競争ではなく助け合う社会のあり方を提案する。
 青少年向けではあるが『豊かさのゆくえ』(佐和隆光著、岩波ジュニア新書)もまた、経済大国と言われる一方で、土地・住宅問題、都市と地方の格差、高齢化社会への対応、労働と余暇といった日本社会の課題にふれ、真の豊かさとは何かを考えさせる。
 2003年に亡くなった経済学者の飯田経夫氏は80年代から日本の豊かさをテーマにして数々の新書を著してきた。世界には貧しい国が数多くあることに想像力を働かせることなく、「豊かさ」に安易に疑問を投げかける日本社会を批判。著者はすでに日本は基本的に十分豊かであるとするが、アメリカ流の物質的な富を至上とするような豊かさへの追従には警鐘を鳴らす。
『日本の反省』、『経済学の終わり』(ともにPHP新書)では、日本社会が豊かさを達成した基盤としてエリートではない「ヒラのひとたち」の勤勉性や能力があったことを評価する。が、規制緩和に象徴されるような市場優先主義が日本社会が本来もっていた社会の規律を失わせていると嘆く。経済学もまたこうした問題に対して無力だったという自戒の念を語る。
『経済学の終わり』では、アダム・スミス、ケインズ、マルクスという経済学の巨人の思想に沿って、現代社会の経済問題を批判的にとらえる。高度産業文明が抱える「4つの無理」として、「搾取」「過労死」「帝国主義的侵略」「地球環境破壊」を挙げる。「経済学は社会哲学である」とする著者は規律ある「よき社会」をつくることが豊かさにつながると説く。
『豊かさの精神病理』(大平健著、岩波新書)は、バブル期を象徴するような「ものに憑かれた」人々の心理を精神医学の専門家の立場から語る。『豊かさの文化経済学』(松原隆一郎著、丸善ライブラリー)は、文化と経済の望ましい関係について考察。そのなかで企業メセナ、市民の役割、有識者の役割を説く。
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