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バイリンガリズム
二つの言語を自由に操るバイリンガル、三つ以上の言語を操るマルチリンガル。バイリンガル、マルチリンガルに「なる」とはどういうことか。言語世界や思考過程は一つの言語のみを話す「モノリンガル」の人々と異なるのか。どの言語にも十分な読み書き能力がない「セミリンガル」の危険など、成長期の子どもを中心にみた言語の獲得と喪失、各国と日本の外国人子女教育の比較など。バイリンガル教育と社会について。
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読書ガイド
 日本で「バイリンガル」と言うと、とかく近視眼的に「英語がペラペラ話せる」ことだけに話題が集中しがちだが、世界レベルで考えた場合、バイリンガルは、もっと広範な意味をもち、バイリンガル社会は珍しいことではない。カナダにおける英語とフランス語、アメリカでの英語とスペイン語、香港の英語と広東語、イスラエルの英語とヘブライ語、台湾の台湾語と北京語、最近は手話も「第二言語」と見なすなど、その実態は様々だ。バイリンガルの問題は、言語学、社会学、心理学、教育学、そして脳科学に至るまで、広範囲にわたって研究されている。
 バイリンガルの全体像を社会言語学から分かりやすく解説したのが『バイリンガリズム』(東照二著、講談社現代新書)。母語と外国語を習得した人は思考も二つなのだろうか?バイリンガルは二つの世界を相対的に見られるのか、それとも二重人格なのか? いわゆるチャンポンで話す「コードスイッチング」は不純なのか、高度な言語能力なのか? 2言語は頭の中で分離しているのか、共有されているのか……? 社会言語学でもさまざまに考えられているこれら高度な学説を、具体例を出しながら巧みに説明を進めて行く。その流れの中で、ソシュールの理論もチョムスキーの「言語習得装置」もすっきり頭に入ってくる。これも、アメリカで教鞭を取る著者自身の優れた<説明言語能力>に依るところが大きいだろう。統計的にも、言語を習得できるかどうかは本人の目標言語に対する肯定的態度、そして外からの強制ではない自発的な動機だという。「うまく行かない学習例」は日本人の誰でも思い当たりそうだ。また、後半ではアメリカでのバイリンガル教育の歴史やその実態について詳しく述べられているが、著者自身は、強者(英語)が弱者(他言語)を駆逐するのは良しとせず、2言語を双方向的に学び合う姿勢を尊重する。
『バイリンガルの科学』(小野博著、ブルーバックス)は、科学と言ってもサイエンスではなく、海外子女や帰国子女の知的発達や入試研究を行ってきた著者によるデータを基にした1冊。海外で子女教育に当たる日本人の親に向けて様々な具体的アドバイスがされている。子どもは適応力がある、すぐにペラペラ話せるようになる、という親の考えは必ずしも正しくはない。「親の選択が一生に響く」「親の意識過剰が子どもを不幸にする」「一歩間違えばセミリンガル(どの言語でも高度な思考ができない)」など、親にはどれもドキッとする警鐘だろう。結論はふたつ、小学生までは一言語教育の方が望ましいこと、大人になってから外国語を学習した方が効率が良いこと、すなわち日本人は成人後でもバイリンガルになれるチャンスはある、とする。
 1980年代の日本企業のアメリカ進出とともに浮上してきたのが日本人子女の教育問題だった。アメリカ社会で日本人子弟はいかに育っているか、『ニューヨーク日本人教育事情』(岡田光世著、岩波新書)と『異文化に育つ日本の子ども』(梶田正巳著、中公新書)ではその実態を探る。前者はニューヨーク日本人子弟の3つの選択肢「現地校・補習校・日本人学校」をそれぞれ詳しく報告。後者は津田梅子など明治の留学生の人生とアイデンティティの在り処を振り返りつつ、現代のアメリカにおけるESL教育や多文化教育を考察する。それぞれ1993年と1997年の出版だが、どちらも「異文化」をキーワードとして言語習得の問題を位置付けている。また、『バイリンガルの子供たち』(唐須教光著、丸善ライブラリー)は大学教授である著者が、アメリカ生活で3人の子どもをアメリカ現地校に入れ、帰国後も敢えてインターナショナル・スクールへ入学させた教育体験記。一種のバイリンガル教育"成功例"と言えるだろう。
 バイリンガルに直接言及した箇所はないが、言語をサイエンスの対象で考えたのが『言語の脳科学』(酒井邦嘉著、中公新書)。認知脳科学も今や生理学、言語学、心理学がクロスオーバーする学問となっている。言語学に革命をもたらしたチョムスキーが、学生時代に哲学と数学を学ぶよう師からアドバイスされた、という話もうなずけようか。
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