本が売れない。新刊書店の廃業が止まらない。出版流通システムの行き詰まりもあって本の売上が1997年以来7年連続で減少している。古書業界も同様にどん底の状態にあるようだ。世界的にみても出版不況である。本屋の未来はどうなるのだろう。書店・古書店の世界を紹介しながら、本と本屋の魅力を探る。
『書店の近代』(小田光雄著、平凡社新書)は、江戸時代末期から昭和期(戦前)までの書店の風景の変容を時間軸にそって25話で紹介する。出版業界のあり方を歴史構造と本に憧れ続けた人々、という二つの視点を交差させて描く。
現在では丸善は大型書店のひとつにすぎないが、明治時代から昭和にかけての丸善は作家にとっては特別な場所だったらしく、本書でもユーモアたっぷりに描かれている。二葉亭四迷、尾崎紅葉、田山花袋、佐多稲子、芥川龍之介、森鷗外、梶井基次郎、石川啄木など、丸善に惹きつけられていた作家は大勢いて、それに多くの頁を割いている。昭和2年に新宿・紀伊國屋書店を開いた田辺茂一も丸善に憧れて書店をはじめたとのこと。現在の疲弊したリアル書店とは比較にならないくらい書店の輝いていた時代が確かにあったことを、懐かしさをこめて記している。著者は出版流通の研究をライフワークにしている評論家。本書は歴史という視点を意識しながら出版流通問題にも踏み込んでいるが、本好きの人なら面白く読める。
少し古いが『江戸の本屋』(鈴木敏夫著、中公新書)は江戸時代の出版文化通史。江戸時代初期の活字版ブーム、営利出版の確立と初期の刊本、井原西鶴と浮世草子の時代、大坂出版界の興隆、江戸地本の発生、本屋仲間の公認、洒落本の隆盛、蔦谷重三郎の時代、人情本の流行、笑いの文学、などの内容で読み応えがある。貴重な写真や図版も多数収録されている。西鶴や蔦谷重三郎などの人物にまつわるエピソードが興味深い。著者は朝日新聞入社当時から「出版のことならなんでも勉強してやろう」と決意し、出版文化史をテーマに、グーテンベルク以前の時代から現代まで通史的に研究しているようだ。
『江戸の本屋さん』(今田洋三著、NHKブックス)も、江戸時代における出版業の成立から幕末の出版事情まで、歴史的な展開過程を文化の変化とからめて追跡している。
『世界の古書店』(川成洋編、丸善ライブラリー)と『はるかなる本の文化を求めて』(川成洋編、丸善ライブラリー)は"世界の古書店シリーズ"の3巻本。ヨーロッパから始まり、アメリカ、カナダ、ラテンアメリカ、中国、台湾、韓国、日本の神田神保町まで、文字通り世界中の古本屋を作家、大学教授、翻訳家などの愛書家や古書マニアがエピソード豊かに紹介する。作家の逢坂剛が巻頭のイギリスにある古書の町、ヘイ・オン・ワイとラストの神保町を紹介しているが、古本屋に対する熱愛ぶりが窺える。どのエッセイもいきいきとして、いかにも本好きの人が楽しんで書いた世界古書店案内となっている。旅行ガイドとして読んでも面白い。
『一古書肆の思い出』(反町茂雄著、平凡社ライブラリー)は、多くの国宝を世に紹介した古書肆弘文荘店主・反町茂雄の60年にわたる自伝。全5巻(『修業時代』『賈を待つ者』『古典籍の奔流横溢』『激流に棹さして』『賑わいは夢の如く』)の全集もの。昭和2年、東大卒業式の3日後に住込み小僧となって古書業界へ飛び込んだ修業時代の苦楽と悲喜、稀書や珍書探究に全力をあげて奮闘した中年時代、古典籍の市場氾濫も下り坂に向かう昭和28年まで、古書一筋に生きた著者の生涯を回想する。
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