現代社会に生きる人々の多くは、好むと好まざるに関わらず、日常的にブランド品と呼ばれる商品とその情報に囲まれて生活している。熱狂的にブランドに憧れを抱き、好みのブランド品を手に入れ身につけたり所蔵したりすることに最高の幸せを感じる人々まで出現している。「消費者」と呼ばれるようになった消費社会の人々がブランドに惹かれるのはなぜなのか、企業はどのような戦略をもってブランド品を育てているのか、そもそもブランドの価値の源泉はどこにあるのか。
『ブランド : 価値の創造』(石井淳蔵著、岩波新書)は、社会の富の基本形態は商品ではなくブランドであるという認識の下、ブランドが価値を持つようになるメカニズムに迫る。著者はブランドを、(1)商品名がブランドとなっている「製品指示型」(熱さまシート、画王など)(2)同じ使用機能をもつ商品群をさす「使用機能紐帯(技術横断)型」(植物物語、フェラーリなど)(3)同じ技術を使って様々な商品を作っている「技術紐帯(使用機能横断型」(ペンタックス、ポッキーなど)(4)ブランド名だけが共通項となる商品群を形成する「ブランド紐帯型」(無印良品、ラルフローレンなど)--の4つに分類し、ブランド紐帯型ブランドこそ、ブランドの典型として、論を進める。ブランド紐帯型ブランドが指示するのはある商品ではなく意味や価値である。その特徴は<統一性をもった宇宙を確立しながら、変容する可能性を示す不思議なダイナミズムを持ち><商品開発に向け無限の運動を強いられつつ、統一性を失うことなく価値を深め領分を拡張できる可能性を持ち><時間と空間を超越し、共同幻想に留まらぬ価値を持つ>ことであり、それは、消費者の欲望により自然に発生するのでも、製作者の意図のままに誕生するのでもなく、<製品名から自立し、それ自体として価値を持つ><立場が入れ替わり、製品が名前の価値を表現するメディアの位置につく><製品の技術や使用機能が変わるときブランドが新しい価値を伝えるメディアとなる>という過程の中で生まれる<製品と名前のあいだのメディア性とメッセージ性の交錯のダイナミクス>がブランド誕生の秘密だ、というのが著者の主張である。
『ブランド』が学者によるブランド本質論だとすれば、『企業を高めるブランド戦略』(田中洋著、講談社現代新書)は、企業のブランド戦略を担当してきた元電通マンによる、ブランド戦略実践の書である。ブランドが売買され、ブランドは企業の資産となっているという時代状況の説明に端を開き、著者は、ブランドをマーケティングの基本に据えて従来のマーケティングを組み立てなおし、より有効なものとすることができるかどうかが、企業に問われているブランドの問題だと指摘し、ブランド管理、新ブランドの創造、成熟ブランドの活性化、企業ブランドのマネジメントなどについて、実際の成功例などを示しつつ、具体的かつ実践的に説明している。教養書というよりは、現場で働くマーケッターを対象とした参考書といった趣だ。ブランドが重要なのは、売れ続ける環境を作り出すからであり、ブランド戦略では短期的な売り上げよりもブランド価値が優先され、製品そのものだけではなく、コミュニケーション発想が重要であるという。なぜなら、コミュニケーションとは、マス広告やつり広告にチラシ、商品パッケージ、販売員など、ブランドと顧客が関わるすべての接点をさし、消費者はブランドを手掛かりとして商品を購入し、また、コミュニケーションの質でブランドの価値は高まるからだという。最終章の<ミツカン味ぽん・成熟ブランドの活性化>など成功例によるケーススタディーも興味深い。
『ブランド広告』(内田東著、光文社新書)も元電通マンによる、ブランド構築の有効な手段となるブランド広告についての教科書的著書である。著者は<消費者にイメージを喚起できる><愛着を抱かせることができる>の二つをブランドの条件としてあげ、ブランド広告の成功例をふんだんに紹介しつつ、<インパクトよりもコンセプトが重要><消費者の立場に立って広告を発信する><一貫性の重要性>など、豊富な経験から著者が積み上げてきたブランド広告のイロハを伝授する。『日産自動車の失敗と再生 : 日本人ではなぜ再建できなかったのか』(上杉治郎著、ベスト新書)は第1章でブランド管理の失敗を報告、『フランス生まれ : 美食、発明からエレガンスまで』(早川雅水著、集英社新書)は2章でフランス生まれのブランドのルーツを、『アジアのビッグビジネス』(井上隆一郎著、講談社現代新書)は世界を席巻し始めた新ブランドを持つアジア諸国の企業の事業展開と経営戦略を紹介する。
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