イギリスは、日本人にとっては、明治維新以降、西洋文化受容のお手本とした国だが、様々に形容されすぎていて、どこかつかみ所がない感じもする。イギリスとはどんな国で、イギリス人とはいかなる人々なのか。イギリス体験の長い、様々な職業の人々が、その人の見聞きし感じたイギリス論を語る。
『イギリス式人生』(岩波新書)と『豊かなイギリス人 : ゆとりと反競争の世界』(中公新書)は、長く新聞社のロンドン特派員を務めた新聞記者黒岩徹氏のイギリス論。新聞記者らしく、具体的エピソードをふんだんにちりばめながらイギリス社会を俯瞰し、イギリス人の特質と言われる「ゆとり」に光を当てる。たとえば、イギリスの下院では、議長に選出された議員は、議長になることに抵抗するそぶりを見せる慣習がある。それは、議会と王室が対立してきた長い歴史の中で、身を挺して議会の権限を守ろうとした議長が捕らえられて処刑されたことがあり、そのような危険な職にはつきたがらなかったという故事に基づいているという。その伝統を、今も守り続けているのがイギリスであり、それがこの国の「ゆとり」なのだという。しかし、イギリス流ゆとりも磐石なわけではない。著者は、ゴルフでズルをしたり、美味しく入れるのに時間がかかる紅茶に代わってインスタントコーヒーの消費が大きくなったりという事実を示し、イギリスからゆとりが失われつつある現状も報告している。
『英国式人生のススメ : 金持ちでないけど豊か、成功しなくても幸福になる12の哲学』(入江敦彦著、新書y)は、英国在住のエッセイストによるイギリス論。ゆとり、ユーモア、古いものを大切にするなど、「日本人が英国的と考えるものの表層のヴェールを剥いで」、著者が見た英国人のリアルな姿を紹介している。導入で、人気のテレビ番組を紹介するあたりは心憎いばかり。日本でもコピー番組が作られたウィーケスト・リンクなど、英国で誕生した番組の特徴と人気の秘密を描写しつつ、イギリスを語る。読み進むうちにこの番組が日本で成功しなかった理由が納得でき、その理解がイギリス理解にも繋がる。全編にわたり、具体的なエピソードに挟まれた著者の英国論は慧眼である。いわく、英国紳士が流行に左右されず、よいものを一生使うのは、伝統を大切にしたりこだわりを持っていたりするわけではなく、それが得だし、楽だし、考えなくてすむからだ--などなど。日本社会はチェス盤の社会であり、イギリスはジグソーパズルのように人々が組み合わさって一つの絵になっている社会だ、という指摘も、見事である。
イギリス本の大半が、長期滞在した英国びいきの日本人により好意的に記述されているのに対し、『これでもイギリスが好きですか?』(林信吾著、平凡社新書)は、"よきイギリス"の裏側を痛烈に批判している。著者は、たとえば、ゆとりは、階級社会の不当な一般化にすぎず、努力しても報われることのない階級社会が生み出した、諦めの果ての境地だと指摘する。そうした指摘は、イギリスでは階級によってまったくアクセントが違った別の英語が使われていて、それは方言の違いよりも顕著といった事実によって裏打ちされていて、説得力がある。
『階級にとりつかれた人びと : 英国ミドル・クラスの生活と意見』(新井潤美著、中公新書)は、イギリスで「ロウアー・ミドル・クラス」と呼ばれる労働者階級の上位に位置する階級のイメージが作られていった過程をたどり、イギリスの姿を描く。『物語イギリス人』(小林章夫著、文春新書)は、多様性、日和見主義、変幻自在、現実主義、ユーモアなどをキーワードに、イギリス人のイギリス人たる所以を探る。
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