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忠臣蔵
忠義に殉じた男たちの美学、忠臣蔵。赤穂事件から聞こえる元禄武士の肉声とは。その陰で史実と伝承の舞台に生きた女たちの晴れ姿。川柳を通じて味わう忠臣蔵など。
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読書ガイド
 映画やテレビに今でも取り上げられる「忠臣蔵」については誤解されていることが多い。忠臣蔵とは、一般に人形浄瑠璃である「仮名手本忠臣蔵」のことであるが、赤穂浪士の敵討ちを主題とした浄瑠璃や歌舞伎などを総称して忠臣蔵と呼ぶこともある。つまり大石内蔵助良雄率いる赤穂藩の浪士47人が、吉良邸に討ち入りした実際の事件(「赤穂事件」)だけではなく、フィクションを含めて忠臣蔵という場合があるので、この事実と芝居(フィクション)を混同すると正しい理解は得られない。
「忠臣蔵」関係の書籍を読む場合、それがどちらについて書かれているものなのか、それを理解しつつ読むことが必要だろう。
『忠臣蔵』(松島栄一著、岩波新書)では、まず歴史上の事実である「赤穂事件」を史料から明らかにし、その後に、芝居「忠臣蔵」について詳しく解説。忠臣蔵全体の流れが理解できる入門書。赤穂事件は2つの事件からなる。1つは、元禄14年(1701年)赤穂藩主、浅野内匠頭長矩が江戸城で吉良上野介義央に切りかかった事件。浅野は罰せられて切腹、吉良は無罪。赤穂藩はお家断絶となり藩士は浪人になった。そのうち47人が、大石内蔵助良雄をリーダーにいただき、主君の敵討ちを計画した。もう1つは、次の年の12月15日未明、その浪士たちが本所の吉良の屋敷を襲撃した事件。吉良の首を切り落とし、泉岳寺にて主君の墓前にそなえた。浪人たちは幕府の命令により切腹させられた。この時点では、まだ「忠臣蔵」という呼称はない。
「赤穂事件」から約50年後の寛延元年(1748年)に、大坂竹本座で、この事件を題材にした人形浄瑠璃(文楽)として「仮名手本忠臣蔵」が初演された。この浄瑠璃が人気をよんだため、すぐに歌舞伎にもなり大当たりをとった。
 しかし、芝居「忠臣蔵」は、敵討ちを賞賛する内容だった。江戸時代とはいえ、敵討ちは御法度。そこで、芝居のなかでは、物語の背景を室町時代に移し、登場人物の名前も、高師直(吉良上野介)、塩谷判官(浅野内匠頭)大星由良之助(大石内蔵助)などと変えられている。また、有名なお軽・寛平の恋は、芝居のときにできた。
 今、時代劇などでみる忠臣蔵は、時代を江戸に戻して演じられているため、事実そのものと思われがちだが、「仮名手本忠臣蔵」から脚色されたものも多い。そこが混乱の元である。 『忠臣蔵』(野口武彦、ちくま新書)は、芝居には踏み込まずにひたすら史料に基づいて「赤穂事件」からの生の声を取り上げる。討ち入りの状況など史実の細部が生き生きと再現されている。『「忠臣蔵事件」の真相』(佐藤孔亮著、平凡社新書)では、「赤穂事件」の謎を解き明かそうと試みる。浅野は何故切りつけたのか、吉良ほど誤解されている人はいない、討ち入りの日、吉良邸の長屋に無傷の人がいたなど、事件の意外な真実に深く迫る。
『忠臣蔵とは何だろうか』(高野澄著、NHKブックス)も、史実と対比させながら芝居「忠臣蔵」の面白さを解き明かす。芝居「忠臣蔵」は、敵討ちの知識を通じて武士を知る、庶民にとっての政治学の教科書であったと説く。
『真説赤穂銘々伝』(童門冬二著、平凡社新書)では、赤穂事件を現代と結びつけながら、一人ひとりについての真の姿を歴史人物伝の達人の著者が斬新な視点で描きだす。
『おんな忠臣蔵』(田口章子著、ちくま新書)では、男の美学に彩られた忠臣蔵は、男のドラマの数だけ背中合わせに女のドラマがあると、泉岳寺境内で忠臣蔵にまつわる話を語って聞かせたという伝説の老婆・妙海尼をはじめ、忠臣蔵に巻き込まれた女たちにスポットを当てる。江戸時代の封建社会イコール女が虐げられていたという既成の図式から、私たちを解放する説得力が忠臣蔵の女たちにあるという。
『江戸川柳で読む忠臣蔵』(阿部達二著、文春新書)では「浅からぬ恨み額に傷をつけ」「星が出てあさの恨みを夜晴らし」「仮名の仕舞いは一の字を腹へ書き」など、江戸川柳に沿って江戸庶民の目から忠臣蔵の世界をたどっていく。
 47人が、忠誠を尽くし、命を捨てて仇を討ったことで、近世・近代を通じて「義士」として評価され続けた赤穂浪士たち。だが、その人気は、「赤穂事件」のものというより、芝居『忠臣蔵』によるものではなかったか。その背後からは、政治のパワーゲームを義理と忠義の人情話に作り替え、日本人の心情に訴えることに成功した一人の戯作者の高笑いが聞こえてくるようだ。
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