何の気負いもなく「クラシック音楽が好き」と言うのは、案外むずかしい。「好きと言えるほど詳しくないかも」と弱気になったり、むやみに通ぶったりしてしまう。
『はじめてのクラシック』(黒田恭一著、講談社現代新書)は、「好き」という原点を大切にした、第一級の入門書だ。音楽評論の大御所であることなぞ微塵も感じさせない平明な文章で、音楽を聴く喜びが丁寧に語られる。クラシック音楽をとっつきにくくしている原因のひとつは、曲が作品番号で表されることが多いから、との指摘に内心ほっとする人もいるだろう。交響曲や協奏曲をフルコースのディナーとすれば、初めはひとつの楽章をアラカルトとして「つまみ聴き」したって構わない、それこそがCDやレコードの利点なのだから、と著者は言う。コンサート会場に足を運ぶことと、オーディオ機器で演奏を再生することの比較など、「聴く」という行為の意味を深く考えさせる内容だ。巻末にコンパクトな名盤70選が付いている。
ある程度クラシックになじみがあると自認する中級者や、「若い頃には随分レコードも買ったのだけど……」という人には、『クラシックCDガイド』(石原俊著、岩波アクティブ新書)が刺激的だろう。推薦される100枚のCDは、いずれも現存の指揮者、ソリストによる録音で、フルトヴェングラーやカラヤンは登場しない。著者の情熱は、「現代の演奏家がどういう演奏をするのか知ってほしい」「これから遭遇するかもしれない名演奏を予習してほしい」ということに注がれているからだ。「バレンボイムは何でも料理できるシェフ」「キーシンは精密機械タイプのピアニスト」といった文章は機智に富む。サイモン・ラトルに心酔する著者らしく、ラトル盤が多いのもご愛嬌だ。
従来の名盤紹介には飽き足らないという人には、重量感たっぷりの『クラシックCDの名盤』(宇野功芳、中野雄、福島章恭著、文春新書)を薦めよう。クラシックの目利きとして高名な3人の筆者が、1曲ごとにそれぞれベストCDを挙げ、お互いの推薦盤を批判したりもするスリリングなスタイル。往年の名指揮者から現代の演奏家まで網羅し、「演奏」「録音」「総合感銘度」についての3人の採点が★の数で記されている。豊富な写真や洒落た音楽コラムも楽しく、巻末には使用されたオーディオ機器の詳細、作曲家別の推薦CDリストも。
同じ顔ぶれによる『クラシックCDの名盤 演奏家篇』(宇野功芳・中野雄・福島章恭著、文春新書)は、さらなる上級者向け。20世紀の誇る演奏家たちについて、3人が思い思いの評価をしている。それぞれが歯切れよく仮借なく批評しており、あるピアニストの演奏について宇野氏が、「なんという無機的な音! 本当にイヤな音!」と最低点をつけている率直さには敬服する。異なる人間性、音楽観を持つ3人の組み合わせの妙を感じさせられる。
やや異色の名盤案内としては『クラシック千夜一曲』(宮城谷昌光著、集英社新書)が面白い。中国古代史に材を取った小説で知られる作家が、自身の音楽体験を交えつつ、名曲10曲について鑑賞の喜びを語った1冊。川端康成やフッサールが出てくるあたり、昨今の奇を衒った音楽批評とは深みが違う。
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