「田舎暮らし」という言葉が話題になり始めたのは1980年代のことで、そのころ日本経済は"バブル"を迎えようとしていた。しかし、一方で地価は急激な上昇をつづけ、生活の基盤でもある土地が投機の対象となり、経済的な繁栄に比して生活の質は必ずしも高くないといった現実を前に、「豊かさとはなにか」が強く意識されたころでもあった。
同じく「海外暮らし」も、このころ話題になった。経済的な繁栄を謳歌しているのに先進諸外国に比べてはるかに劣る生活環境(住宅事情)に対して感じる理不尽な気持ちから、海外での生活が注目を集めた。「円」の力が国際的に強まり、為替上のマジックにより日本にいるよりはるかに「円」の使い勝手があるという理由からも海外暮らしの魅力が語られた。その代表的なものは、当時の通産省が音頭をとったシルバーコロンビア計画である。日本で小金を抱えたお年寄りに海外での年金生活を勧めたものだ。
このように田舎暮らしは、物質的生活、金銭的な生活に対して、また、海外暮らしは日本での閉塞的な暮らしに対してのアンチテーゼという意味が当初はあった。しかし、その後もつづく田舎や海外で暮らす人々の実態をみると、田舎暮らし・海外暮らしは自然な形で定着してきたようだ。このことを実感させられるのが、実例を含めてまとめられている田舎暮らし・海外暮らしに関する各新書である。
『選択・定年田舎暮らし』(湯川豊彦著、宝島社新書)の著者は、自ら田舎暮らしを実践する団塊の世代。定年後に田舎暮らしをはじめた人々を全国各地に訪ね歩きそのライフスタイルを追い、同時にこうした暮らしの意味を真摯に問う。畑仕事をしたり、店を開いたり、農業民宿を併設したりと、さまざまな形で暮らす登場人物たちの姿は実にさわやかだ。
田舎暮らしにはっきりとした目的があればそれにこしたことはないのだろうが、著者は「信念や哲学がなくても、誰にも田舎暮らしはできる・・・、単なる憧れであっていいし、ロマンであってもかまわない」という。逆に「こうあるべきだ」と決めつけることは、自然や周囲の人々との関係に身を委ねざるをえない田舎の暮らしには向いていないのではないかと説く。
『40歳からの都会2田舎8の生活術』(西川栄明著、講談社+α新書)の著者も同じく田舎暮らしを実践するフリーライターで、本書で実践例を紹介しているが、登場する人たちは定年後ではなく、働き盛りに田舎暮らしをはじめている。「会社は辞めずに田舎で暮らす」「本拠地は田舎だが都会にセカンドハウスをもって仕事は都会でする」あるいは「田舎で仕事を見つけて暮らす」など、そのスタイルはさまざまだ。
著者自身は北海道に住みながらときどき東京など都市へ出て行く「都会2田舎8」の割合で暮らしているというが、最初は「都会5、田舎5」くらいを目安にするといいという。ここに表れているように、都会暮らしと田舎暮らしの境界は徐々に曖昧になっているようだ。
海外暮らしの場合は、田舎暮らしよりハードルは高いのでしっかりした情報をもとに実践に移すべきだろうが、この点『海外リタイア生活術 : 豊かな「第二の人生」を楽しむ 』(戸田智弘著、平凡社新書) の情報は単なるハウツーにとどまらず具体的かつ示唆に富んでいる。「海外生活ネットワーク」なるホームページを運営する著者は、まず日本人の海外移住の歴史から触れて、現在海外暮らしの候補として人気のあるアメリカ、オセアニア、アジア各国の受け入れ状況を退職者ビザの有無、治安、医療環境などについて整理している。また、同時に海外生活を送る日本人の暮らしぶりを紹介している。同じように『定年後の海外暮らし:「豊かな老後」のために』(布井敬次郎著、ワニのNEW新書)も海外暮らしの実例を交えて、老後の海外生活についてのアドバイスをする。著者は外国人に永住権を認めてくれるアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピンの5カ国を移住の対象として勧める。著者自身はかつてフィリピンにマンションを買って暮らしていたというが、日本からのイメージとは違ってフィリピンの過ごしやすさについての話が印象的だ。
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