「よい取材とは何か」を考えて作家もライターも悩む。それはいつの時代も変わらない。『取材学』(加藤秀俊著、中公新書)は25年ほど前に書かれたもの。しかし、もっとも重要な部分、肝ともいうべき部分はまったく古びていない。
取材とは何か、文字の世界の探検、耳学問のすすめ、現地をみる、取材の人間学など、全6章から構成され、積極的・主体的に情報を使うコツを解き明かす本書は、問題意識をもつ重要さを指摘する。つまり取材したいテーマ(材料)を決めること。それなしには、どんなにいい文章が書けてもはじまらない。著者は、何人もの一流の職人に取材した結果、彼らがまったく同じことを言った、と明かす。<材料がわるければ、どうにもならない>と。逆にいえば、いい材料こそが、いい製品、ないし結果物の前提だ、ということにもなる。料理人の世界でも材料7分、腕3分といったところが現実らしい。これは、ものを書くという仕事にも当てはまる。
すぐれたジャーナリストや文筆家は材料を選び抜く。「材料集めとその吟味に多くの時間と労力を投入する。これを一般に<取材>という」。十分な取材なしには、いいものは絶対に書けない。テーマ(材料)の吟味さえ終われば、あとは図書館を使いこなし、百科辞典や書物をフルに活用して資料を丹念に探していけばよい。これらの文献探索の方法もわかりやすく指導してくれる。締めくくりに重要な警告をしている。「取材者の警戒すべき悪徳は独善と尊大である。目標とすべきは、人間的愛情と謙虚さである」。ものを書く人は最初に読んでおくべき示唆に富んだ「取材」の入門書。
『史実を歩く』(吉村昭著、文春新書)は作家の取材ノート。『長英逃亡』『桜田門外ノ変』『生麦事件』など幕末に材をとった歴史小説や戦史小説で知られる作家・吉村昭の綿密な取材方法とはいかなるものなのか。ここでは『破獄』のユニークな犯人Sや、『長英逃亡』の主人公・高野長英の足跡を追う取材を例に、どのようにテーマを見つけ、調査し、現場を訪ね、人に会い、小説を組みたて、言葉を練っていくかまで、気の遠くなるような地道で緻密な調査の日々を明かす。案外知られていないが、小説の書き出し部分を誤り、250枚以上書いた原稿を焼き捨てた話や読者からの手紙の扱いなど、史実にこだわる小説家の喜びと苦悩が淡々とした表現で綴られる。たった一行の言葉にもこれほど神経を使うのか、と驚く。吉村昭のいくつもの重量級ノンフィクション小説の秘密が理解できる。
『私の体験的ノンフィクション術』(佐野眞一著、集英社新書)は、ノンフィクション作家・佐野眞一が師としてあがめる民俗学者の宮本常一の著書『忘れられた日本人』や『民俗学の旅』などから、いかに取材方法を学び取ったか、その方法論を縦糸に、自著の『巨怪伝』『東電OL殺人事件』などを横糸に織り成す体験的ノンフィクション論。著者はノンフィクション・ライターの使命は小文字の世界を描くことにある、という。それは、「忘れ去られ片隅に追いやられていく人びとに、愛惜のまなざしをもって接していった」宮本常一の民俗学の方法論に重なっている。歩き、見、聞き、記録する、ノンフィクションへの熱い思いが伝わってくる。同時に、日本中を隈なく歩き回り取材し続け、スパイではないのか、とまで疑われた宮本常一への入門書でもある。
取材とインタビューは基本的には同じだが微妙に違っている部分がある。『インタビュー術!』(永江朗著、講談社現代新書)は年間100人もの人に会ってインタビューをする、という著者のインタビュー入門書。「本書は、まずインタビューする人、インタビューされる人、そしてインタビューを読む人のことを考えて書いた」とあとがきにあるが、実に丁寧な書き方でインタビューという取材方法の裏も表も見せてくれる。事前準備、話の聞き方、まとめ方、インタビュー記事の読み方、インタビュー文章の文体の決め方まで、過去の魅力あるインタビュー本を参考書として駆使し、ときにユーモアを交えて解き明かす。
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