「日本人の起源」は未解明の謎である。多くの研究者がその解明に情熱を燃やし、様々な説を提出しているが、定説は確立されていない。研究には考古学者はもとより、自然(形質)人類学者、言語学者、遺伝学者、ウイルス学者など実に多様な分野の学者が取り組んでいて、それが日本人起源論を賑やかにしている。そもそも「日本人」というとき何を指すのかの認識が、研究者により異なっていたりするため、何をもって「日本人の起源」とするかということすら共通認識されていない。勢い、日本人起源論は百花繚乱となり論争は熱くなる。この熱さが日本人起源論の面白さでもある。
『日本人はどこから来たか』(樋口隆康著、講談社現代新書)は、考古学者の日本人起源論である。樋口は日本人を「日本列島に住み、同じ体質を持ち、日本的な文化を持つ一群の人類群」と定義した上で、「日本人の起源とは日本文化の起源である」という立場から、起源を、日本文化の形成過程に求めている。他分野の知見も参考にし、石器や土器、稲作の伝来や農具など発掘から得たデータをもとに考察する樋口は、文化は樺太、朝鮮半島、東シナ海、台湾・南西諸島、小笠原諸島の5ルートから日本に移入されていて、その合成により日本文化は形成されたが、中でも中国江南地域から東シナ海を通って伝えられた文化が最も重要な役割を果たしており、形成時期は弥生時代である、という仮説をたてる。
『日本人の起源』(池田次郎著、講談社現代新書)の著者は自然(形質)人類学者である。形質人類学とは、骨や肌の色など身体的特徴から人類を分類する学問で、古代研究には古人骨から得られる情報を手がかりとする。池田は日本人の起源とは、日本列島に住み着いた人々が独自の体質を獲得していく過程であるとし、2万年前にアジア大陸から到着した人々が、日本列島人独自の身体的特徴を獲得した日本人の生成期は縄文時代中期で、現在の本州人とほぼかわらない骨格風貌を獲得した確立期は弥生時代とする。
日本人の起源論では、自然人類学者の埴原和郎の「二重構造説」が有力である。南方系の縄文人が日本人の土台となり、後にやってきた北アジア系の人々と混血して現在の日本人が作られたという説である。これに異を唱えるのが『新説!日本人と日本語の起源』(安本美典著、宝島社新書)である。安本は遺伝学と言語学による研究の成果から埴原説の矛盾を指摘し、日本人の母胎は太古に存在した環日本海人で、北回りで大陸とつながった人々が縄文文化を担い、南回りの人々が弥生文化を成立させた、と見ている。
『新ウイルス物語 : 日本人の起源を探る』(日沼頼夫著、中公新書)はウイルス学者による起源論だ。日沼は、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスの保持者の分布が列島で一様でないことに着目し仮説を提出する。ATLウイルスは母子感染し遺伝子のように子々孫々伝えられるため、祖先をたどる有力な手がかりとなる。日本人はATLウイルスキャリアの割合が高い地域と低い地域に二分される。沖縄、北海道や、東北四国九州の辺境地にキャリアの割合が高く、そのデータから、日本列島にはATLウイルスキャリアの先住民がいて、のちに大陸から移動してきたノンキャリアの人々との混血がすすんだ。混血が少なかった地域にキャリアが多い、というのが日沼の仮説である。
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