処女にして母、婢にして女王。唯一絶対の神を崇めるキリスト教にありながら、聖母マリアはイエス・キリスト以上の人気を集め、信仰の対象として崇められている。
決して望んだわけではない妊娠で子供が生まれ、しかもその子は弟子から裏切られて刑死するという悲劇の持ち主であるにもかかわらず、マリアには華やかな彩りがある。
それは慎ましく禁欲的な人生を全うした後に、中世キリスト教世界の権力の象徴である女王の冠を戴くというイメージが人々を感激させ、納得させたからと、『聖母マリア』(竹下節子著 講談社選書メチエ)は解説する。
本書は聖母マリア信仰の変遷をたどり、人々を引き付けてやまない彼女の魅力を探った一冊だ。
新約聖書の中には、実はマリアの記述があまりなく、史料のとぼしさゆえに人びとが自由な想像力を発揮する余地が生まれ、各地にキリスト教以前からあった女神のイメージを投影することができたと著者は指摘する。つまり、聖母マリアの存在は、異教的な大地母神のエネルギーを吸収するというキリスト教の必要に応えるものでもあり、布教の大いなる力にもなったわけである。
カトリックのみならずイスラム世界でもマリア信仰が見られるという事実、現代でもアメリカを発信地として新しいマリア教義を要求する動きがあることなど、日本ではあまり馴染みのない知識も随所に挿入されていて面白い。マリア信仰を知るためには格好の一冊だろう。
『聖母マリア伝承』(中丸明著 文春新書)は毎年スペインに滞在し、マリア信仰の熱気を肌で知る著者が、聖母マリアに関する故事・伝承を伝える。処女懐胎の謎に関してなされたさまざまな解釈や著者自身のユニークな推論、絵画に描かれたマリアのあれこれ、聖母伝説の形成とその背景などが展開されている。
『聖母マリヤ』(植田重雄著 岩波新書)は伝承や伝説、讃歌、年中行事、絵画や彫刻などを通して、人びとが聖母に托した願いと祈りを探り出す。
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