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過労自殺  第二版
川人 博著
-- 岩波書店, 2014.07 , 268p. -- (岩波新書 ; 新赤版 1494)
ISBN : 新<9784004314943> , 旧<4004314941>
 
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「風邪? のど痛い? 明日休めないんでしょ?」。女優の小雪さんが語りかける。私はこのCMを見て、とても違和感を感じた。薬の効能についてはコメントできる立場にはないが、問題は、風邪気味で,のどが痛くとも、熱っぽい状態であっても、仕事を休まずに出勤することを前提にしていることである。日本の職場では、また、社会全体としても、休むことの大切さがまだまだ理解されていない。

 ローマ帝国のストア哲学者セネカは、「心には寛ぎ(くつろぎ)が与えられねばならぬ。心は休養によって、前よりも一層よき鋭さを増すであろう。肥えた畑は酷使してはいけない。つまり、一度も休耕しないで収穫だけを上げるならば、畑はたちまち不毛の地に化するであろう」と説いている。セネカは、休養の例として、「われわれの祖先も、新しい報告が十の刻(だいたい現在の午後4時頃)以後に元老院で行われることを禁じていた」「遠征から帰還したばかりの兵士には夜勤が免除される」などを挙げている(セネカ著『人生の短さについて 他二篇』岩波文庫)。

 セネカの生きた時代から、ほぼ2000年も経過した現代日本の職場では、心に寛ぎが与えられず、休息のない労働が続き、夕方以降も仕事が当たり前のように行われ、出張帰りの人も夜遅くまで労働に従事している。過労自殺に象徴される日本の職場の実態は、ローマ帝国時代よりもひどい面があると思うと、やるせない気持ちになる。成立した過労死防止法を活かして、この異常な時代をなんとしても変えていきたい。
第一章 事例から

1 「願うことはただ一つ。5時間以上寝たい」―24歳・化学プラント工事監督者/「このまま生きていくのは死ぬより辛い」―27歳・システムエンジニア
ミクシィの手記(ブログ)から/真夏に38日間連続勤務/自責感・希死念慮/月200時間の時間外労働まで許容した三六協定/システムエンジニアの過労死/33時間連続勤務も/スレイブ・エンジニア?

2 「残業月平均15時間」の求人票―23歳・新入営業職社員入社
一年目の冬に/「残業月平均15時間」の求人票/「予算」達成のための重圧/10月以降の過重労働による疲弊/「即戦力」という名の過重労働の押しつけ

3 朝早くから夜遅くまで行動を管理され―26歳・金融機関女性総合職
証拠保全/深夜勤務早朝出勤の繰り返し/サービス残業の実態が明らかに/体調の悪化/退職の申出と支店長のパワハラ/電通「鬼十則」の配付/若い女性労働者にひろがるうつ病と死

4 災害対応による過労の末に―40歳・旅行会社課長
遺族の言葉/JTBにとっては学校はVIP/部下の退職と課長への昇進/ニュージーランド大地震の発生/精神疾患・失踪・死亡/不祥事の背景にあるもの/災害後対応による過労死

5 「給料泥棒!」と罵倒されて―34歳・医療情報担当者
遺書/人間のいのちと健康を守るはずの製薬企業で/顧客先病院の医師に土下座/同僚たちから遺族への謝罪の言葉/本件パワハラの背景/パワハラ容認の労基署の誤りを正した裁判所

6 脅迫された被害者なのに左遷されて―51歳・中間管理職
読者からの一通の手紙/手帳の日記/中傷ビラ/会社の理不尽な対応/妻も病死し、子二人が労災申請/東京地裁が労災と認定し、確定

7 医療現場の過酷な労働―29歳・外科医師/44歳・小児科医師
「休息したい」/2年半で休日がわずか27日/恒常的な睡眠不足、体調の悪化/小児科医師の遺書/常勤医師が半減して/労基書が労災と認めず、東京地裁が認定/医療の質にとっても深刻な事態

8 破れた新任女性教員の夢―23歳・小学校教員
新任後わずか2か月後の悲しい死/単学級の学校でクラス担任/負担の重い新任教員の4~5月/残業・休日出勤・自宅労働をしても追いつかず/保護者からの批判に悩み苦しむ/疲れ果てて……/公務災害申請/他の職場でも同様の犠牲者が



第二章 特徴・原因・背景・歴史

1 民間・政府の統計
「過労死110番」/政府の統計

2 過労自殺の特徴
年間2000人以上の被災者/過重労働の特徴と背景/うつ病などに罹患/普通の労働者がうつ病を発症する時代/加害者が被害者を叱る/闇に葬られる過労自殺

3 政府の自殺統計の分析
警察庁統計と厚生労働省統計/自殺者数・自殺率の推移/性別・年齢・職業の有無/原因・動機分類の見方/「勤務問題」が原因・動機/「勤務問題」の具体的内容/自殺場所/労災申請数は、氷山の一角/労災認定例から見る年齢/労災認定例から見る業種等

4 遺書の特徴
なぜ抗議でなく、おわびなのか

5 過労自殺の社会的背景
デュルケームの自殺論/失業率と自殺率の連動

6 人権史・労働史から見た過労自殺
諏訪湖畔の無縁墓地に眠る人々/1日14~15時間労働と入水自殺/ある女工の遺書/肺結核、消化器疾患、精神疾患……/戦前の剥き出しの強暴な資本主義への後戻り



第三章 労災補償をめぐって

1 労災補償とは

2 労災補償に関するQ&A
(1)労災申請の手続
   制度の仕組み/会社の協力義務と申請行為
   /あきらめないで申請を
(2)認定件数と認定基準
   労災認定件数/労災認定基準
(3)長時間労働の立証方法
   労働時間を証明する資料/留意すべき事項
(4)労働時間以外の要素について
   心理的負荷評価表/ハラスメント
(5)精神障害発病の証明
(6)不服申立と行政訴訟
   審査請求・再審査請求/行政訴訟
(7)公務災害申請
   手続の概要/公務災害の認定基準
(8)企業による補償
   二種類の企業補償/安全配慮義務違反/損害の内容
   /受領済の労災保険金の一部控除
(9)会社に対する職場改善要求
   労基署に申告・告発/会社との交渉

3 労災行政を変えてきた遺族の活動
『ビルマの竪琴』/労災申請後10年を経てついに労災認定

4 労災行政の今後の課題
2011年認定基準/脳・心臓疾患との相違/ハラスメント/複数の負荷がある場合/負荷評価の対象期間/発病後の負荷による悪化/同種労働者論と心理的負荷の程度



第四章 過労自殺をなくすために

1 職場に時間のゆとりを
時短論議はいずこへ/約500万人が年間3000時間以上働く/深夜労働の増大/三六協定の限界/裁量労働制導入の危険性/男女共通の労働時間規制を/インターバル規制の導入を/公務員の職場の改善を

2 職場に心のゆとりを
「がんばり」の限界/「殺されても放すな」/失敗が許容される職場を/義理を欠くことの大切さ/失業をしてもやっていけるセイフティネットを/過重労働のグローバル化に歯止めを

3 適切な医学的援助・治療を
なぜ精神科治療を受けなかったか/職場における自殺予防マニュアル

4 学校教育への期待
企業の実態を知らせることの大切さ/「ブラック企業」という言葉の落とし穴/ワークルールを学ぶことの大切さ/“一生懸命”はやめよう

5 過労死防止法の制定
過労死はあってはならない/国連から日本政府への勧告/新しい経営理念と実践/企業倫理と健康経営/過労死等防止対策推進法の成立/法律の意義と今後の課題


 あとがき
  主要引用・参考文献一覧
 [巻末資料]業務による心理的負荷評価表(抄)
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