新書で考える「いま」
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2024/01/31
第194回 『人に寄り添う防災』
能登地震、死者238人に 珠洲で2人増加
石川県は29日、能登半島地震で確認された死者が新たに2人増え、同日午後2時現在で238人になったと明らかにした。2人はいずれも珠洲市。連絡が取れない安否不明者は19人で、28日から変動はなかった。
県によると、住宅被害は新たに620棟確認され、4万4386棟になった。断水は輪島市や珠洲市などのほぼ全域で継続し、県全体では影響が4万1千戸を超えている。
北國新聞 DIGITAL 2024/1/29 16:15(更新2024/1/29 16:18)より
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被災者の支援や被災地復興に心を寄せる一方で、自分が住む地域に災害が起きたらどの程度の被害が想定されるか、自分は「その時」どう行動すればよいのか、防災意識をアップデートしていく必要がある。
「人が死なない防災」
ここまで災害が激甚化してくると、従来の「防災対策を強化する」という、日本の防災のあり方では限界があるのでは。防災の専門家はそう懸念している。
『人に寄り添う防災』(片田敏孝著、集英社新書、2020年)の著者の片田氏は、防災研究、防災教育の専門家として、東日本大震災の前から、岩手県釜石市の小中学生に津波から逃げるための防災教育と避難訓練の指導を続けていた。東日本大震災では、釜石の小中学生からは津波による犠牲者を出さず、「釜石の奇跡」として有名になった。
片田氏は東日本大震災後も、防災の研究者として検証委員会や対策会議で議論を重ね、日本各地で地震や豪雨など気象災害が起きるたびに提言をまとめる側として参加してきた。その度に「避難の促進が重要」「ハザードマップの活用」「要配慮者に声がけを」といった、毎回同じ「反省」と、代わり映えしない「提言」が繰り返されてきた、という。
検証委員会では、避難情報の出し方、避難場所の設定、ハザードマップの周知、防災教育のあり方など、行政が対処すべき範囲の防災に議論が集中している。もちろんその議論は重要であることは間違いないが、「あるべき論」では、逃げられなかった人を救えないのではないか、片田氏はそう自問している。
片田氏が防災の最優先課題として一貫して訴える「人が死なない防災」を目指すには、何が必要なのだろうか。
防災は「行政対住民」の課題ではない
今回のような大規模な災害が起きると、避難指示のあり方やその後の対応を含め、住民の目線から、「行政は何をしたか」「何をしてくれなかったか」という議論が起きる。避難所における環境整備や二次避難先の確保など、行政が主体となって果たすべき役割ももちろん多く、改善の余地がある部分もあるだろう。
一方で、行政側から見れば、これまで起きた災害から得た教訓を周知しようにも、自分の地域のハザードマップを見たことがない、避難指示に従わず、危険な場所にとどまるような「防災意識が低い」住民に対して、これ以上どのような対処ができるのか、という声もあるという。
しかし、本書で片田氏が指摘するように、防災は、「自然対社会」の問題であって、「行政対住民」の話ではない。社会全体が一体となって強くなり、自然災害と向き合うという目的を常に意識することが重要だ。
また片田氏は、防災上の重要な課題として、「コミュニケーション」の重要性を指摘する。
ハザードマップを「見ようとしない」心情とはどんなものなのか。避難指示があっても避難しない人には相応の理由があるのではないか。そのような心情を理解せず、行政からの「依頼」や「上から目線の指示」を繰り返すだけでは、「命を守ってほしい」という最重要のメッセージを届けることができない、と著者は指摘している。
自然の脅威に立ち向かうために、防災対策に関して行政と住民はどのようにコミュニケーションをとっていけばよいのか。行政からみる防災と、住民からみる防災の「溝」をまずは共有していくことが求められている。
(編集部)