新書で考える「いま」
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2024/05/31
第198回 『ゆるい職場』
新社会人のスピード退職 相談多数 背景は 離職防止でAI活用も
退職代行サービスへの相談が増えるなど、4月に入社したばかりの新社会人のスピード退職について、専門家は「不確実性を少なくしたいと思う人も多く、適切な情報を伝えることが大事だ」と指摘しています。こうした中、雇用側とのミスマッチを減らし、早期離職を防ぐためにAIを活用する取り組みが始まっています。
NHK NEWS WEB 2024年4月18日 22時07分
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「退職代行サービス」を利用して早期退職する若者が増えているという。
「退職代行」とは文字通り、退職する本人と会社側との間に入り、退職に関わる交渉や手続き等を代行してもらうサービスである。近年急速にニーズが高まり、さまざまな業者が参入し注目を集めている。会社との交渉や手続き代行はもちろんのこと、上司に引き止められたり、手続きのために出社して気まずい思いをすることもなくきっぱり辞められるとして、早期離職が増える要因の一つになっているようだ。
雇用する側から見れば、コストをかけて採用した新人に、一年もたたずに辞められてしまうのは大変な痛手だ。せっかく入った会社を早期に辞めてしまう理由は何なのだろうか。
若者はなぜ辞めるのか
『ゆるい職場/若者の不安の知られざる理由』(古屋星斗著、中公新書ラクレ、2022年12月)では、大手企業の新入社員たちを対象に行った調査などから、「会社を辞めていく若者」たちの実態を分析している。 そこで、早期に離職する若者たちの中には「職場に『不満』があって離職する」ものと並んで、「職場に不満はないが今後のキャリアに『不安』があって離職する」という、二通りがあることを示している。
「仕事がきつくて辞めたい」……職場や上司、業務に「不満」があるから辞める若者がいるというのは、比較的理解しやすい。
業務が多すぎる、職場の環境が劣悪だ、業務内容や給与の条件が就職前に聞いていたものと全く違う。そうした理由で「不満」を抱えての早期離職は相当あるに違いない。
就活で得ていた情報をもとに想像していた会社や職場のイメージと現実とのギャップに対する「不満」、「配属ガチャ」「上司ガチャ」と呼ばれるように、配属される部署もどんな上司の下で働くのか選べない「不満」、また、人間関係の悩みによる早期離職ももちろんあるだろう。
一方で、「仕事がゆるくて辞めたい」という意見をもつ若者も相当に多いという。そのことに、管理職も人事部門も気づいていないのでは、と著者は指摘する。
「仕事がゆるくて辞めたい」
職場環境に不満はない。上司に叱られたり理不尽な思いをさせられたりしたこともない。だが「辞めたい」。つまり、会社のことは好きで不満はないが、辞めたいと思っている。本書では、そうした若者が一定数存在することを明らかにしている。ある一定以上の年齢層の人には理解しづらいのではないだろうか。どういうことなのだろうか。
著者は、少なくとも大企業では、ここ数年で激変した日本の職場運営ルールにより、管理職層の新入社員時代と比較すれば職場環境が大幅に改善されたとしている。「働き方改革」で長時間の時間外労働は規制され、統計でも新卒社員の総労働時間は減ってきている。約10年前の世代と比較すると、残業時間は平均して半減以下の水準だという調査結果もある。コロナ禍により導入された在宅勤務を継続する企業も増え、社内外でのコミュニケーションスタイルは大きく変化した。パワハラ、セクハラの防止にも、企業は力を入れている。
職場環境の急激な「改善」も離職率低下につながらない
働き方改革により総労働時間が短くなり、リモートワークも導入されて時間にゆとりがある。パワハラやセクハラともほぼ無縁、上司に叱責されることはもちろん、先輩から厳しい指導を受ける経験ももたず、同僚が叱責される場面を目にすることもほとんどない。休みもとりやすく、柔軟な働き方が認められつつある。入社前のイメージと、悪いギャップを持つことも減ってきている。「終電がなくなりタクシーで帰ることも多かった」という上司や先輩の「経験」などは、全く参考にならない。
恵まれた職場環境で「不満」はないという若者たちだが、このまま今の仕事をしていても成長できないのではないか、と漠然とした「不安」を感じている。他の部署や別の会社では自分のスキルは通用しないのでははないか、今の職場にいたら(よりよい条件の職へ)転職できなくなっていくのではないか、同世代と比べて差をつけられているのではないか、そうした不安を抱えているのだという。
若者たちは、上司たちと違い、一つの会社に定年までいるという前提にはない。いずれ転職し、キャリアアップすることを考えると、早いうちに見切りをつけて次の場所へ、という意識になるのだろう。
職場環境は「改善」されているはずが、若者の離職率はまったく改善されていかない。叱られたことがない、厳しい指導を受けたことがない若者をどう育てていけばよいのか、なかなか難しい課題ではある。
(編集部)