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新書で考える「いま」

編集部がおすすめする一冊を中心に「いま」を考えてみる。

2024/06/30

第199回 『地方消滅』

去年の合計特殊出生率 1.20で過去最低に 東京は「1」を下回る

1人の女性が産む子どもの数の指標となる出生率は2023年、1.20となり、
統計を取り始めて以降最も低くなったことが厚生労働省のまとめで分かりました。
2022年の確定値と比べると0.06ポイント低下していて、8年連続で前の年を下回りました。

NEWS WEB 2024年6月5日 19時45分 更新
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「消滅可能性都市」リストの衝撃から10年

2014年5月、日本創成会議(増田寛也座長)は、20歳から39歳の「若年女性人口」が2010年から2040年にどう推移するかを予測し、減少予測から導き出された「消滅可能性都市」896のリストを含む「増田レポート」を公表した。
「このまま人口減少が進めば、2040年までには896の自治体が消滅しかねない」
「消滅」という強い言葉を使った報告書は各地で話題となり、座長を務めた増田寛也らは、同年8月に関連する新書『地方消滅/東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)を刊行して詳細を解説している。
『地方消滅/東京一極集中が招く人口急減』と、本書のもととなる「増田レポート」にある各種の推計は、2010年の国勢調査がベースとなっており、2011年の東日本大震災の影響は加味されていない。当然、その後各地での自然災害やコロナ禍など、人口減少予測を大きく変えるような出来事も多く起きている。10年前の予測と比較して、現状はどうなっているだろうか。今、改めて読むとどのような発見があるだろうか。

「消滅可能性都市」とそれ以外の都市の差

「増田レポート」では、2040年に、「20歳から39歳の女性」(若年女性)が50パーセント以上減少(推計)する市区町村を「消滅可能性自治体」にあたる、として警鐘を鳴らしている。
本書巻末には、北海道から沖縄までのすべての自治体について、都道府県ごとに若年女性の減少率の高い順に並べたリストを掲載している。例えばリストの一番目に掲載されているのは北海道奥尻町(北海道内でワースト1位)である。若年女性人口をみると2010年の時点で202人だが、2040年には27人と推計されている。総人口も2040年では1064人と推定されており、2040年まで待たなくても消滅する可能性はかなり高い、と言わざるを得ない。
このリストでは、「消滅可能性自治体」はグレー、奥尻町など深刻な「消滅可能性が高い」自治体には濃いグレーで色がつけられて目立つようになっている。2024年の段階で総人口が1万人未満(推計)の自治体は「消滅可能性が高い」とされ、さらに強い警告が出されているが、その数は全国で523である。
対象外となった自治体関係者はほっと胸を撫で下ろしたかもしれないが、数値をよくみると、減少傾向であることは変わらず、「消滅可能性自治体」一歩手前の自治体も多数ある。
「消滅可能性自治体」と名指しされて悲観的になったり、対象外だったと安心するのではなく、現実問題として、このリストを冷静に受け止めることができていたか。人口減少に対応するための現実的な取り組みを進めてきたか。人口減少のスピードを少しでも緩やかに変えられている自治体があるならば、この10年何をしてきたのかを知りたい。

地方から若者を吸い寄せる「ブラックホール現象」

本書で増田氏は、若者が「地方に比べて格段に子育てがしにくい」東京に移動を続けた結果、(地方にいれば子どもを産むはずだった)集まった人たちに子どもを産ませず、少子化を急速に進めたとして、ここでは、若者人口が東京に集中するのに子どもが増えない現象を「人口のブラックホール現象」と呼んで懸念している。
10年後の現実は、とみると、東京一極集中は相変わらずだが、その内実は若干異なる。東京都の子育て支援策が以前より充実してきているからだ。例えば「出産費用助成」「不妊治療の助成」「高校生までの子どもの医療費無償化」「所得制限なしの高校授業料無償化」など、近隣の自治体が真似できないほどの子育て支援策が打ち出されている。「地方は不便な面もあるが東京より子育て環境がよい」という前提が崩れつつある。以前から都市部に集中している若年女性を地方に回帰させることは、いっそう困難になりそうだ。
本書に掲載されている座談会では当時「復興大臣政務官」という職にあった小泉進次郎氏が登場し、「このリストは『事実から目を逸らすな』というメッセージなのだ、と僕は受け取りました」という率直な感想を述べている。
そこにある「事実」と、10年後、20年後近い将来の予想は何か。もう一度この「消滅可能性自治体」のリストをよく見る必要がある。

(編集部)

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