新書で考える「いま」
編集部がおすすめする一冊を中心に「いま」を考えてみる。
2024/08/31
第201回 『気象予報と防災』
防災気象情報の扱い
台風10号の影響で九州、四国地方を中心に記録的な大雨が続き、JR九州は8月29日から30日にかけ全線で運休となった。台風の進路からは離れている静岡県でも大雨の被害が予想され、東海道新幹線も一部を除き運休となったほか、空路の欠航も各地で相次いだ。夏休み最後の週末を目前に、日本全国の交通網が大混乱となり、社会全体への影響も大きかった。
集中豪雨の発生、台風の強さや進路については、衛星からの観測システムやシミュレーション技術の進歩に伴い、気象庁が発表する予報が数十年前より精度が高くなっていると感じる。各種の防災気象情報は、手元のスマホでリアルタイムに得られるようになってきた。鉄道の計画運休など、予測をもとにした事前の防災対策も一般的になってきている。
地球規模で起きる気象現象は、その発生メカニズムはわかっていても、集中豪雨は特に事前予測が難しく、実際に何時ごろにどの市町村でどの程度の被害が起きるかなど、影響の範囲や大きさまでを予測することが難しい。避難勧告を出すタイミングによっては、夜間など、避難行動がかえって危険を伴うことにもなりかねない。
「特別警報」「警報」「注意報」の意味するところ
『気象予報と防災/予報官の道』(永澤義嗣著、中公新書)は、長く「気象庁予報官」を務めた著者が、日本の気象予報の歴史を振り返るとともに、現代社会で不可欠となった気象サービスのあり方について考察する。民間の「気象予報士」とは異なる、気象庁の気象予報官の仕事についても紹介する。
「平年通り」の平年とは何か、「大気の状態が不安定」とは何を意味するか、日頃聞き慣れている気象用語の定義や気象の慣用句の意味についてもわかりやすく説明している。
本書では、気象庁が発信する「警報」や「注意報」とは何か、その定義や法的根拠について、2013年(平成25年)から運用が開始された「特別警報」とともに詳しく解説している。特別警報は、従来の警報の発表基準をはるかに超える大雨などが予想され重大な災害の危険性が高まっている場合に発令される。
気象庁予報官の重要な仕事に、報道機関と協力して、気象災害に対する「危機感」を正しく伝えること、がある。いまの危険性がどの段階にあるか、今後どうなるか、気象情報を整理して情報を最も効果的なタイミングで発表する。都道府県知事、市町村長や各機関と協力して、避難勧告等の発令を支援する。多くの人の命にかかわる、責任の重い仕事だ。
警報とは、人命を守るため「避難を考えるべき状況に至ったぞ!」という強い警告である、気象庁予報官や報道機関の「顔色」からも、理解してほしいと著者は呼びかけている。気象の専門家からの、防災に関わる強いメッセージを、私たちは正しく受け止め、適切な行動につなげているだろうか。
(編集部)