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美学
芸術が突きつけられている課題とは何か、20世紀初頭にヨーロッパの精神科医たちによって「発見」された「アウトサイダー・アート」について、芸術の保護者であるパトロンの果たした役割など、美学の入門。
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読書ガイド
 美とは何か。美を感じる心とは何か――。美学は単なる芸術論ではなく、どんなものが美とされてきたかという歴史や、人間が何を美しいと感じるかという哲学を含むダイナミックな学問である。
『美学への招待』(佐々木健一著、中公新書)は、芸術もまた時代状況と不可分であることを明快に論じた好著。この1〜2世紀の間に、芸術のあり方は激変した。それは印刷や録音における複製技術の発達、工業製品のデザインの影響などによるものである。美学者として名高い著者は、マリリン・モンローの顔写真を並べたアンディ・ウォーホルの『マリリン』や、便器を『泉』と名づけて展示会に出品したマルセル・デュシャンの試みを例に挙げつつ、芸術が感性的であるよりは知的な性格を強めてきた流れを説く。そのうえで、「センス」とは何か、「アート」と「芸術」の違い、身体の再発見などを論じ、「人間中心主義」を脱した美学にまで思いを馳せる。巻末には参照文献、参考書や入門書をリストアップした読書案内も付記してあり、懇切な入門ガイドといえる。
『アウトサイダー・アート/現代美術が忘れた「芸術」』(服部正著、光文社新書)を読むと、芸術とは何か、という根本的な問いかけにたじろがされる。著者は現役の美術館学芸員であり、実際に展示を企画する立場から、さまざまな作品の魅力を紹介している。「アウトサイダー」とは「部外者」を指すが、ここでは既成の美術の枠組みからはみ出た境遇の人、自由奔放な作風などをいう。フランスのシュヴァルは、郵便配達人として25年働いた後、40代から30年以上の年月をかけて石を積み上げた巨大な建造物を独力で作り上げた人である。精神障害者の描く絵の驚くべき色彩感覚や精密さには、マックス・エルンストやパウル・クレーも並々ならぬ関心を寄せ、影響を受けたといわれる。「描かずにはいられないから描く」という尊さこそが美ではないかと思わされる。
『工藝の道』(柳宗悦著、講談社学術文庫)も、ある意味で芸術や美といった既成概念を揺さぶる。日用品の簡素にして実用的な美にとことん着目し、希少価値のある美術品が必ずしも美しくはないことを主張。作者も分からぬ古い磁器や陶器に描かれた、名画家の筆にも匹敵する淀みなく素早い筆跡に、著者は賛辞を惜しまない。そうした器の形や色の品格は、労働による豊富な経験、反復と勤勉こそが産んだのだという。いまだ機械によって手工を超える美が産出されていないことから、現代のギルド再編を提唱した哲学者の思いにあふれている。
『近代日本「美学」の誕生』(神林恒道著、講談社学術文庫)は、日本に美学が導入された歴史を追う。幕末の動乱から明治初期にかけては廃仏毀釈の風潮があり、伝統的な美術品は軽視された。ところが、米国からフェノロサが東京大学に赴任し、開校されたばかりの東京美術学校の校長だった岡倉天心と親交を深めたことから、東洋美術の独自性が再認識されるようになり、日本美術の再興に向けた運動が展開された。伝統的詩歌の近代化を試みた正岡子規のリアリズム論、ロダン芸術を広めた「白樺」同人たちなど、美学を巡る日本人たちの動きが丁寧に綴られる。
 戦後の美学研究を担った一人として、中井正一は重要な人物である。『美学入門』(中井正一著、朝日選書)は、美の追求が「ほんとうの自分」にめぐり合うプロセスでもあると説く彼の名著『美学入門』と『日本の美』の2作が収められている。「身体とは、光、音、言葉、のいろいろのものを、無限にうつしあう鏡のいっぱいにある宮殿のようなものと考えられる」といった独特の文章が魅力的であり、映画やスポーツ、文学、舞台など多岐にわたって美が考察されている。この中井の業績と彼の生き方を絡めて明らかにしたのが、『中井正一/新しい「美学」の試み』(木下長宏著、平凡社ライブラリー)。スポーツ好きだった学生時代、治安維持法違反の疑いで検挙されたこと、戦争直後には疎開先の広島で「東方の美」などのテーマで講演会を度々催したことなどが、著作と響きあう形で書かれている。国立国会図書館の副館長として多忙な日々を送りながら、美を人間の精神活動の媒介として究明しようとした美学者の生涯は胸を打つ。
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