テーマで探す新書ガイド 新書マップ BOOK MAP web magazine [ 風 KAZE ]
>>新書マップ検索画面へ戻る
テーマ Theme
テーマ Theme
儒教
日本人の思考、倫理、道徳の核を形成してきた儒教は古い家族制度を支える封建的思想という暗いイメージがつきまとう。儒教の根本とは何かを考える。
関連書籍を探す
読書ガイド
 儒教は、現代の日本人に最も大きな思想的影響を与え続けている宗教である。私たちは、それとは知らないうちに、儒教から道徳的、倫理的な規範を授けられて社会生活を送っている。学生時代に先輩があんなに威張っていられたのも、会社では年功序列がいまだに幅を利かせているのも、親を老人ホームに入所させることに罪の意識を感じるのも、お仏壇に祭って祖先を供養するのも、元を糺せば、儒教的倫理観に行き着く。一方で、儒教には、江戸時代以来、為政者に重用され封建的家族制度を支えてきた、四角四面の倫理道徳という暗いイメージが付き纏っている。しかし、毛嫌いされながら、強い影響を持ち続けているその儒教について、私たちはほとんど何も知らないと言ってよいのではなかろうか。
『儒教とは何か』(加地伸行著、中公新書)は、儒教の宗教性に光をあて、儒教の本質を解説した名著である。儒教は宗教とは言えないとする見方を批判する著者は、儒教に倫理道徳というイメージが付き纏うのは、儒教の礼教性(規範)ばかりを見て儒教の宗教性を忘れた間違った見方をしているからだと指摘する。
「現実的・即物的」であることを特徴とする中国に生まれた儒教では、現世に少しでも長く生きていたいという現実的願望を適えるため、死者の霊を認め、その霊を現世に再生させる招魂再生の儀礼を基礎にして広大な論理体系を作っている。即ち、自己の命とは過去を辿れば父の命であり、祖先の命であり、未来へは子孫の命である。永遠の命を得るには、その関係を大切にする他はなく、そこで祖先崇拝、父母への敬愛、子孫繁栄の三つの行為を一つとする「孝」の思想が生まれた、というのが著者の儒教観である。著者は、祖先から自己を経て子孫に繋がる永遠の命という思想によって死と死後について説明する論理体系に、儒教の宗教性を見ているのである。
 儒教が東アジア地域(中国、朝鮮、日本)で歴史的に大きな影響力を持ち続けてきたのは、一般には、為政者が統治の論理として利用してきたからだと理解されているが、著者は「孝」の論理体系が大衆に受け容れられてきたことこそが、儒教が支持され続けている秘密だと指摘する。その一つの典型が、日本における仏教と祖先崇拝の融合である。輪廻と解脱を中心思想とする仏教では、本来、祖先の祭祀はあり得ないことである。なぜなら、祖先は他の何かに生まれ変わって生きているか、あるいは解脱していて祭祀する必要がないからである。つまり、私たち日本人は、仏教儀礼と思って、仏壇の位牌に手を合わせて祖先を祭祀しているが、これは実は儒教の儀礼なのであり、この儒教的な祖霊崇拝と御先祖様が守ってくださり、一族が繁栄するという信仰こそ、日本人の大半が受容し心の支えとしてきた宗教なのである。
『儒教の知恵:矛盾の中に生きる』(串田久治著、中公新書)は、「自然に根ざした人生の指針を提示する」儒教の教えを、古典の中の逸話を素材に紹介する。著者は、〈儒教は個々人の心のあり方や知性に依存する、換言すれば、個々人に責任を負わせる精神主義的な理論であった〉と看破する。そして、その楽観的合理的な思想が統治原理として利用され、家族や国家の犠牲にさせられた多くの人々に苦痛をもたらした暗い過去を認めたうえで、その教えが現実社会で生き抜く知恵でありえる側面を、現代に伝えている。
『儒教 ルサンチマンの宗教』(浅野裕一著、平凡社新書)は、大変ユニークな著である。タイトルが示すとおり、儒教とは、その始祖孔子のルサンチマン(憎悪や嫉妬、復讐心)が作り上げたまやかしの宗教だというのが、著者の儒教論である。即ち、卑しい身分に生まれ、貧困に苦しみ、上昇志向が激しかった孔子が、空想と妄言で作り上げたのが儒教であり、孔子の死後、後継者らによって神格化されるに及んでその野望が達成された、というのである。
 事実はさておき、著者の見方は非常に斬新である。行間に、孔子への、個人的な憎悪が滲み出ている点でも、大変ユニークな一冊である。なぜ、著者がそこまで孔子を憎むのか、読者としては興味が尽きないのであるが、残念ながら、その理由は明らかにされていない。
ウインドウを閉じる
<< PAGE TOP