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揺れ動く現代日本語
言葉が乱れる、変化するとはどういうことなのか。氾濫するカタカナ語、若者言葉や誤用(とされる)敬語表現などから現代日本語の「ゆれ」「変化」について考える。
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読書ガイド
 日本語ブームが続いている。このブームは数年ごとに訪れるようで、日本人はつくづく自国語に深い愛着と関心を抱いているのだと思わされる。ことばは誰もが使うものだが、その規範や語感は世代や育った環境、地域によって大きく異なる。ことばを考えることは、自分を知ることでもある。
『日本語ウォッチング』(井上史雄著、岩波新書)は、言語学者による正統な現代日本語研究だが、平明で楽しく読める。「食べれる」「見れる」などの「ら抜きことば」がどう広がったか、という検証もさることながら、可能の表現が「ら抜き」となったことで受け身・尊敬の表現と区別できるようになったという見方は新鮮だ。アクセントの平板化は「ことばの省エネ」、江戸時代にも「やっぱし」「ばっかし」が使われていた、など興味深い指摘が多い。新しいことばの出現には、必ず日本語のもつ特性や言語変化のメカニズムが関わっていることが分かる。
 フィールドワーク的に学生たちの日常語をとらえ、その背景まで丁寧に考察した『ありえない日本語』(秋月高太郎著、ちくま新書)と『かなり気がかりな日本語』(野口恵子著、集英社新書)はいずれも好著。
『ありえない日本語』は、言語学を専門として大学で教える著者が、若者ことばの使用例を豊富に引用しつつ、現代に生きる若者の価値観や心情をこまやかに解説する。ことばに対して無頓着に見える若い世代は、実は他人から「うざい」と思われぬよう「空気を読む」ことに神経を尖らせている。そもそも年長の世代とはコミュニケーション・スタイルが異なるのであり、それはネット上の新しいコミュニケーションの普及と関わる、という分析は鋭い。
『かなり気がかりな日本語』の著者は、大学で日本語とフランス語を外国人学生と日本人学生に教えている。外国人学生なら「暑いので冷房をつけてください」と言うであろう状況で、日本人学生は「暑いかもしれない……」「あのー、ちょっと暑いんですけど」といった表現を用いる。読み進むにつれて見えてくるのは、日本社会全体が対面コミュニケーションを苦手とする若者を育ててしまった事実である。飲食店などの空疎なあいさつ表現を憂え、著者は「豊かな日本語力をつけるためのセルフ・トレーニング」の章も設けている。
『新日本語の現場』『乱れているか?テレビの言葉/新日本語の現場 第2集』(橋本五郎監修・読売新聞新日本語企画班、中公新書ラクレ)は、どちらも新聞に連載されたもので鮮度の高い内容。前者は主に一般の話しことば、後者は放送現場と教育現場を追っている。読者との双方向のやりとりが反映されているので、具体的なことばへの疑問や抵抗感の程度が把握できる。海外の若者の間でも「超」という強調表現が好まれていることなど、興味は尽きない。
 フリーアナウンサーの著者による『そんな言い方ないだろう』(梶原しげる著、新潮新書)は、テレビウォッチングを中心に今どきの日本語に苦言を呈する。熟語の読み違いや誤用の広まり、「い」の代わりに「い」と「え」の中間音を使う若者が増えている状況など、アナウンサーらしい発見が面白い。売買春問題の「買春(かいしゅん)」という語への違和感、「認知症」は「認知障」とした方が適切とする提案など、賛同する人も少なくないだろう。
 日本語の言語としての特性を把握したい人には、『日本語はどう変わるか/語彙と文字』(樺島忠夫著、岩波新書)、『日本語を叱る!』(加賀野井秀一著、ちくま新書)がお薦めだ。
『日本語はどう変わるか』は1981年初版のロングセラー。ことばの乱れが問題になる際、それは大抵「語彙」に関わることであり、構造上の変化ではない。平安時代から千年たった今、基本的な語の90%が生き残っている分析など、現代語を考えるうえでも有意義だろう。獅子文六の『自由学校』の引用に始まり、中桐雅夫の詩「ことばの言い換え」で締めくくられるまでに、数々の短歌や江戸末期の狂詩などが引用されており、学術的な内容を楽しみながら読める。
『日本語を叱る!』は、日本語の成り立ちから若者言葉まで広く取り上げる。一知半解のままにカタカナ語を乱用する風潮を危ぶむ一方で、紋切り型の表現になりやすい漢語の乱用を戒めるなど、新語の批判にとどまらない。若者の間で「他者」の存在が希薄になっているために差別的な表現が使われているのではないか、という指摘など興味深いが、具体的な事例が示されていないのがやや惜しい。
 少し変わったところでは、『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』(太田直子著、光文社新書)。外国映画のせりふの翻訳に携わる著者による日本語考は、映画の話も盛りだくさんで二重に楽しめる。「!」「?」の多用を戒めたり、難読漢字のルビや漢字とひらがなの交ぜ書きを考察するなど、書きことばの問題にも触れているのが特徴。差別感を排そうとした「政治的に正しいことば」の是非も取り上げられ、ひと味違った日本語本といえる。
『日本語の将来/ローマ字表記で国際化を』(梅棹忠夫著、NHKブックス)は、ローマ字表記によって日本語を国際的な言語にしようというユニークな論を展開する。日本語を学習する外国人は増える一方だが、多くは漢字でつまずくという。国立民族学博物館長など歴任した著者は、科学や技術、経済といった分野でローマ字化すれば、日本語は国際語になり得ると主張。既存の価値観にとらわれない考え方は愉快だが、複数の対談で構成されているため、若干ダブり部分がある。
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