21. 文学
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日本古典文学を楽しむ
「万葉集」「古今集」などの和歌。「源氏物語」「伊勢物語」など恋の物語、「奥の細道」「土佐日記」などの紀行の数々。豊かな日本古典文学の楽しみ方。
読書ガイド

古典は歴史の波に耐え、読みつがれてきた貴重な財産である。したがって過去のものであると同時に現代のものでもある。「万葉集」「源氏物語」「平家物語」「徒然草」「奥の細道」「好色一代男」などの日本古典文学をはじめ、能や歌舞伎なども基礎知識さえあれば現代人にも十分に楽しめるはずである。どんな入り口から古典にはいっていけばよいのだろうか。

『日本古典への招待』(田中貴子著、ちくま新書)は若い世代に向けて書かれた入門書で、「暗ーい」「ダサーい」「おじんくさーい」という古典のイメージを一掃してくれる。著者は、古典には遊ぶためのルールがあり、そのルールを知ればたちまち豊かな世界が広がる、と言う。そのなかでもっとも大切なルールは、原文とは何かを基本的に知ること。「とはずがたり」を例にとれば、瀬戸内寂聴、永井路子、杉本苑子など多くの女性作家がこれを取り上げているが、あくまでも作家自身の感性でこの物語を解き明かすので、何種類もの「とはずがたり」が生まれている。したがって、原作とは別物であるという認識が必要だという。同じく、「源氏物語」にしても谷崎潤一郎、円地文子、瀬戸内寂聴など、作家の現代語訳はその作家の作品であって、「源氏物語」そのものを読んだことにはならない。同様に校訂者によってもさまざまな「源氏物語」が出現する。「今昔物語集」を読むための京都市内の地図作成方法や、安倍晴明(平安時代の陰陽家)の年表作成を通して、安倍晴明の一生とともにその時代をまるごと理解して遊ぶ楽しさを伝えながら、古典にたいするシンプルで新しい見方を軽やかに伝授する。

古典を読む喜びを教えてくれるのは『古典を楽しむ』(ドナルド・キーン著、朝日選書 )。本書は、日本人以上に日本通の著者がガイドする日本古典文学の入門書。「源氏物語」との出合いや「おくのほそ道」への情熱、近松門左衛門の「冥土の飛脚」の解釈、能や歌舞伎の常識など、著者の知識は計り知れないほど豊かである。どうしてこのようにやさしい言葉でしかも深い内容のものが書けるのか? それは著者の配慮からきている。ここに収録されたものはすべて過去におこなった講演をまとめ、そこからテキストを起こしたものだという。講演をする時に著者が一番気にしているのは聴衆の表情。原稿を準備しても二、三行読むと、聴衆の顔からその反応を見たくなり、原稿から目を離してしまうとのこと。「『源氏物語』と私」では、最初に源氏と出合った18歳の頃の著者の喜びが溢れている。「源氏をどうしても原文で読みたい」という情熱が、著者を日本文学研究の大家へと導いたのかもしれない。

『日本文学の古典』(西郷信綱・永積安明・広末保著、岩波新書)は小説のように楽しく面白い日本古典文学案内書。「いわゆる日本文学通史といった類のものではなく、またむろん、いわゆる学問的な論述でもなく、もっと気ままに、日本の古典の背骨になっていると思われる幾つかの作家や作品を足場にして、古典の再評価のため若干扉を叩こうとした程度のもの」とあるように、作品の時代背景とともに「万葉集」「源氏物語」「枕草子」「蜻蛉日記」「平家物語」「方丈記」「徒然草」「好色一代男」「世間胸算用」「曾根崎心中」など、代表的な日本の古典が紹介される。平安女流文学が発達した理由は仮名文字にあったこと、清少納言と紫式部の価値観の相違や二人の対立、「平家物語」は最初から平家没落に焦点をあて、滅びと悲運からの脱出を構想して書かれた文学であること、西鶴は町人社会に暗い影がただよい始めたときに町人文化のなかに人間の可能性を求めようとして生まれたことなど、どの作品についても人間の心の襞、悲しみや喜びを丁寧に紹介する。『恋の歌、 恋の物語』(林望著、岩波ジュニア新書)は「恋」という切り口から、恋の歌が満載の「万葉集」や「古今和歌集」「源氏物語」などを読み解く。

通史的に日本文学の古典を学びたい人には『日本文学の古典50選』(久保田淳著、岩波ジュニア新書)がおすすめ。上代の文学、中古の文学、中世の文学、近世の文学の4章からなり、50の作品それぞれに簡単な解説がつく。おまけに、作品の種類(「風土記」なら地理書というように)、巻冊数、成立年代、作者などを表にしてまとめてあるので知識を整理するには便利。

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