ファッションや芸術の街として有名なフランスの首都パリは、歴史と伝統と文化の上に成り立っている都市である。シャンゼリゼ通り、凱旋門、エッフェル塔など華やかな観光スポットを代表とする"表の顔"も魅力的だが、田舎風景、小さな美術館、人々の暮らし、伝統など、"素顔"のパリを感じるのもいい。お決まりの観光旅行では味わえないもう一つのパリを覗いてみよう。
パリ在住20年の著者が1区から20区までを訪ね歩く『パリ二十区の素顔』(浅野素女著、集英社新書)は、四季を通じて楽しく散策しながらパリの"素顔"を紹介している。シテ島にあるサント=シャペルとパリ最高裁判所から始まり、ロダン美術館の庭、移民街、高級住宅街…と続く。何気ない街の風景を描写しながら、あるいはそこに住む住人たちにインタビューしながら、各区それぞれの特徴、伝統、人々の暮らしぶりを紹介。例えば、ノエル(クリスマス)を美しく演出するデパートのショーウインドーの様子とその仕掛け人についてなど、四季折々のパリの風景や裏事情を見せてくれて、一味違ったパリを楽しめる。
パリの街角のさりげない光景から歴史をひもとく『パリ歴史探偵術』(宮下志朗著、講談社現代新書)は、幻の城壁があったという石畳の道を出発点に中世のパリの遺構へといざなう。フランス封建王政の地固めをした君主として知られる「フィリップ・オーギュストの城壁」などの城壁跡をめぐり、パサージュ(ショッピングアーケード)を歩き、幻の公衆トイレを求め、青空市を見学…という紙上旅行風の内容で、パリの風景の今を感じながら昔にタイムスリップしたかのように歴史を探索している。
『パリ:都市の記憶を探る』(石井洋二郎著、ちくま新書)は、パリの「門、橋、塔、街路、広場、地下、駅、墓地」にスポットを当て、深い歴史に支えられたパリという都市空間の魅力に迫る一冊。
パリといえば芸術の都。美術館めぐりと芸術あふれるパリを身近に感じさせてくれるのは『パリと七つの美術館』(星野知子著、集英社新書)だ。パリの大小さまざまな美術館の中から「ドラクロワ美術館」「ピカソ美術館」「ブールデル美術館」「マルモッタン美術館」など著者が感銘を受けた7つの美術館を選び、作品の印象や作家の生きざまだけでなく、美術館や街の風景を美しいカラー写真と共に伝えている。写真は著者が撮影したものがほとんどで、著者の目線で見たパリの雰囲気がいい。
パリのみならずフランスについて案内している書では、『フランス歳時記:生活風景12か月』(鹿島茂著、中公新書)と『フランス生まれ:美食、発明からエレガンスまで』(早川雅水著、集英社新書)がユニーク。前者は、毎月の風物や行事を中心としたエッセイのほか、各月にかかわり深い守護聖人を農事暦と共に紹介したエッセイで、その月にまつわる著名人などを紹介。後者は、フランスに起源を持つさまざまなものとその歴史などを紹介。食、ファッション、暮らし、科学など、フランスの意外な発見を楽しめそう。